高校数学でわかる流体力学(講談社ブルーバックス)

ISBN978-4062578677  2014年6月発行

 


第1章 ベルヌーイの定理とはなんだろう
第2章 流体はどのような式で表されるか
第3章 ベルヌーイの定理の数式を導く
第4章 流れ関数と速度ポテンシャル
第5章 複素速度ポテンシャル
第6章 円のまわりの複素速度ポテンシャル
第7章 ブラジウスの公式とクッタ・ジューコフスキーの定理
第8章 2次元翼理論――ジューコフスキー変換
第9章 粘性のある流体とナビエ・ストークス方程式

 

----------------------------------------
はじめに

 流体力学の対象は、私たちの身近なところにあります。空気の流れである風や、川の水流は代表的な対象です。この内、川の流れの制御は、大河の流域付近に誕生した古代の四大文明のころから最も重要な政治的課題の一つでした。この「治水」とも関係して水理学(すいりがく)や水力学が発展してきました。

 現代では、水の流れだけでなく、空気の流れや、様々な液体や気体の流れを対象として流体力学が活躍しています。人間が作り出すクルマや航空機、船などの設計では、空気抵抗や水の抵抗を減らすことが求められますし、航空機の設計では航空機を浮かび上がらせる揚力の計算が必要です。また、風や水流にさらされる各種の構造物、たとえば、ビルや橋、堤防の設計にも流体力学が必要です。さらには目立たないところでも流体力学は大活躍しています。それは、クルマ、船、航空機、工場、都市などの中のさまざまな配管の内側です。流れているのは、水の他に、油、蒸気、化学物質など様々です。人類が地球の表面付近で生活し、現代文明を維持発展させるためには、流体力学の知識は不可欠であるわけです。

 さて、このように重要な流体力学ですが、その中身の理解は、必ずしも容易ではありません。本書を手に取った読者の中には、大学レベルの教科書や参考書を何冊か読んでみたが、どうも中身を理解できなかったという方もいらっしゃるかもしれません。本書は、流体力学を学んでいく過程で、特に初学者にとって理解が難しい箇所を意図的に含む構成にしました。たとえば、ベルヌーイの定理の物理的概念や、二次元翼の理解に不可欠のジューコフスキー変換、それに応力と粘性の関係などです。本書は、大学の講義やこれから流体力学を学び始める方だけでなく、流体力学の学習を試みてつまずいてしまった方にもお役にたてることでしょう。ところどころ数学のレベルが上がるところがありますが、紙とペンを用意して手計算で確かめていただくと、理解が容易になることでしょう。本書を読破して、「おわりに」までたどり着いたとき、流体力学の基本的な流れが脳内を滑らかに循環していることでしょう。それでは、流体力学の旅に出発しましょう。
 
------- ご参考 -------
 本書では、2次元の流体理論を紹介する第4章から複素数が登場します。複素数の必要な知識は本書で解説していますが、複素数の変数を扱う複素関数論をもっと詳しく知りたい方は拙著の「高校数学でわかる複素関数」をご覧下さい。物理学への応用において複素関数論が最も活躍している分野が流体力学です。
 
------- 訂正 (1刷) (PDF版) ------